1 - ミニット・リピーターとは?

ミニット・リピーターとは?
Patek Philippe 5078G

リピーターとは、プッシュボタン、スライドピースまたはレバーの操作により、ゴングで現在の時刻を知らせるコンプリケーション機能をいいます。クオーター(15分)単位で現在の時刻を知らせるクオーター・リピーターから、時、クオーター(15分)、残りの分に至るまでをゴングの音色の組合せで知らせるミニット・リピーターまで、異なった種類のものがあります。
 
ミニット・リピーターは電気が普及する前の時代、暗闇で時刻を知るために用いられましたが、目の不自由な人にとっても欠くことのできない機能でした。今日、最も複雑なコンプリケーション機能のひとつであるミニット・リピーターは、精密機械工学の希少なマスターピースとして、愛好家、コレクターから最も追い求められるもののひとつとなっています。

ミニット・リピーターの
音を聴く

動画:ミニット・リピーター

ミニット・リピーターのゴングは、3種類の音で時刻を知らせます。通常、時を低音、クオーターを高音と低音の組合せ、残りの分を高音のみで表します。例えば現在の時刻が2時49分であれば、低音が2回(2時)、高音と低音の組合せが3回(45分)、高音が4回(4分)鳴ります。 

時刻を知らせる音は、異なる音の高さに調律された複数の環状のゴングを、スチールの小さなハンマーで打ち、これがケース内部で反響することにより生じます。特異な形状の微細な櫛カム、かたつむりカムや歯車から構成されるミニット・リピーター機構は、最も複雑なコンプリケーション機能とされています。 

ミニット・リピーターは、長い歴史を持つチャイム・ウォッチと総称される時計のグループに属し、その中でも最も高度なもののひとつとされています。

チャイム・ウォッチの起源は17世紀末に遡ることができます。その前身はゴングを持たず、ハンマーがケースの内側を打つだけの《無音》リピーターでした。懐に忍ばせた時計に指で触れて振動を感じ取るこの種のリピーターは、廷臣などが退屈なレセプションや会議の途中で、君主の機嫌を損なうことなく時刻を知るために活用したのです。

時は流れ、時計の中蓋に取り付けられた鐘を打つ方式が現われました。チャイム・ウォッチの誕生です。時刻もより細かく伝えることができるように改良が進み、最初は正時のみだったものが、クオーター(15分)単位、ハーフ・クオーター(7.5分)単位、5分単位で打つものが現われました。

分単位で時刻を知らせる最初のミニット・リピーターは、18世紀中頃に誕生しました。18世紀の末には、アブラアン‐ルイ・ブレゲが、従来の青銅の鐘に代わり環状のゴングを用いて時、クオーター(15分)、分を知らせる機構を発明、これによりスペースを節約し、異なる音色を組み合わせることが可能になりました。19世紀末に、今日の形態のミニット・リピーターが完成しました。

ミニット・リピーター機構には100種類以上のきわめて高精度で製作された構成部品が組み合わされています。懐中時計にミニット・リピーター機構を組み込むことは既に非常に高度な技術を必要としますが、これを腕時計に統合することは、桁違いの困難を伴います。なぜなら、この複雑な機構を懐中時計より小さなケースに搭載するためには、すべての構成部品の超小型化を究極にまで押し進める必要があるからです。

ミニット・リピーターの組立ては、数十年の経験を持つ時計製作マスターが200~300時間を費やして初めて可能な高度な作業です。多岐にわたる機械工学上の要素を考慮し、科学的法則を厳格に適用して実践されるものです。

それでも、音質を綿密に分析する最終段階では、同一モデルで同じケース素材であっても、2つのタイムピースが完全に同じ音色を持つことはありません。これは人間の指紋に例えることができるでしょう。

1960年代初めまでに、一般に他社においてはミニット・リピーター製作の伝統は失われていました。しかしパテック フィリップ前社長フィリップ・スターン氏は、1989年、創業150周年記念事業の一環としてミニット・リピーターの製作を再開し、同時に現行腕時計コレクションにこれを含めることを決定したのでした。

パテック フィリップの研究開発チームは、数年にわたり過去のタイムピースを集中的に研究し、これらから将来のミニット・リピーターの姿を模索しました。

この期間、フィリップ・スターン氏は数多くの歴史的ミニット・リピーターのゴングの音色に耳を傾けました。その結果、ミニット・リピーターが技術的には時計製作の頂点に位置するにもかかわらず、そのクオリティを評価し、批判するのはきわめて容易であるというパラドックスに気づいたのです。「時計に関する知識がまったくない人でも、ミニット・リピーターの音色が最高でなければ、すぐに分かるのです」と氏は言います。

パテック フィリップはEPFL(ローザンヌ連邦工科大学)およびジュネーブ工業学校との共同研究を開始しました。中でも、ミニット・リピーターの音色を完璧なものとするための冶金学分野の研究が行われ、多数の成分比率による合金が徹底的にテストされました。

パテック フィリップは、家族経営の時計マニュファクチュールとして、ミニット・リピーター製作の方法において常に一歩先んじています。ひとつひとつのタイムピースは、工房から出荷されるに先立ち、パテック フィリップ社長による音色の最終判定を受けることになっています。パテック フィリップはまた、グランド・コンプリケーションのリーダーとして、どのブランドよりも広範な種類のミニット・リピーター搭載タイムピースを現行コレクションとして製作しています。 

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